日本最長の鉄道網を誇る大手私鉄の近畿日本鉄道は2022年4月に運賃値上げを申請しました。値上げ幅は約17%で、奈良県や三重県などの沿線自治体は反発しています。
17%の値上げによって大阪難波⇔奈良間の運賃は現行の570円から680円に引き上げられます。もともと近鉄は関西大手私鉄の中でも割高なため、この引き上げによって他私鉄会社との価格差が開くことになり、沿線の不動産開発の足かせになる可能性があります。
けいはんな線は日本一高い路線に?
なかでもけいはんな線の運賃割高感は異常です。学研奈良登美ヶ丘⇔長田の運賃は現状でも540円(18.8km)かかっています。梅田までであれば820円もかかってしまいます。既に割高感はぬぐえませんが、運賃改定後は以下の通りになります。
学研奈良登美ヶ丘⇔長田 620円
学研奈良登美ヶ丘⇔梅田 900円
同じ郊外の宝塚や高槻、樟葉であれば300円前後で大阪都心部まで出れるのに対し、この高運賃はあまりにも不利となるでしょう。
加算運賃+直通運賃が重荷に
けいはんな線が高い理由として近鉄そのものの運賃が割高であるだけでなく、以下の理由が挙げられます。
- 加算運賃の発生
- 直通運転による二重加算
加算運賃について、近鉄けいはんな線は比較的歴史が浅く新設の路線であること、生駒トンネルなどトンネル区間が多く建設費が巨額であったことが理由となり、建設費回収のために加算運賃が設定されています。長田⇔生駒で90円、⇔学研奈良登美ヶ丘で130円の加算運賃がかかります。
直通運転による二重加算について、けいはんな線は全車大阪メトロ中央線と直通しており、近鉄の料金とメトロの料金が二重にかかります。例えば学研奈良登美ヶ丘⇔梅田間であれば近鉄料金540円(~長田)+メトロ280円(長田~梅田)となります。
直通割引だけでも設定できないか
加算運賃は設定の経緯を考えると、建設費償還までの解除は難しいでしょう。ですが直通時の割引は設定できるのではないでしょうか?東急と東京メトロ・JR間では20円ほどですが乗り継ぎ割引が設定されています。メトロ中央線・けいはんな線間でも仮に乗り継ぎ割引を80円設定すれば、学研奈良登美ヶ丘⇔長田を乗りとおした場合で現行の運賃水準を維持することが可能です。
どこが割引分を負担するか?
仮に割引を設定するとなると、どこかが割引分の減収を負担しなければなりません。どこが負担すべきなのでしょう?主な候補は以下の4つです。
- 近鉄
- 大阪メトロ
- 奈良県(生駒市)
- 東大阪市(大阪府)
奈良県と東大阪市で負担するのが良い
まず近鉄と大阪メトロは費用負担すべき対象ではないと考えます。なぜならこの直通割引設定による受益者ではないからです。近鉄は奈良線からけいはんな線にシフトしてしまうと、運賃収入が落ちてしまいますし、メトロとしても現状で充分な乗客を確保している中央線を更に混雑させる必要もないでしょう。(厳密にいえば近鉄不動産は受益者ですがここでは割愛します)
では奈良県や東大阪市はどうでしょうか?奈良県はけいはんな線沿線人口の増加や地価上昇による固定資産税増加が期待でき、一番の受益者になると考えられます。東大阪市からみても荒本~新石切間の沿線民が受益者になる+快速急行が通過する奈良線より、各駅停車のけいはんな線を利用してもらえた方が、東大阪市内でお金を落としてくれるチャンスが多く、メリットを享受できます。更には荒本まで延伸してくるモノレールとの相乗効果で拠点性を高めやすく多くのメリットがあるでしょう。
奈良県は反発だけでなく建設的な提案を
現状奈良県はこの近鉄の運賃値上げに反発しています。勿論心情的には理解できます。奈良県の鉄道移動は実質近鉄が寡占しており、競争原理が働かないなかで安易な値上げが行われると、損をするのは利用者です。
しかし一方で奈良県が有効な地域活性化施策を打ち出せず、無策に人口を減らしてしまったことは真摯に受け止めるべきと考えます。いずれにせよこれからの地域活性化に向けて建設的な提案が行われることを期待します。